積読ですよ!真塚さん

なにもわからない。

「週刊クレヨン王国」その1『クレヨン王国の十二か月』

講談社青い鳥文庫20-1
クレヨン王国の十二か月』(著:福永令三、絵:三木由記子、解説:西沢正太郎) 

クレヨン王国の十二か月 (講談社青い鳥文庫)
 

「よいかな、心をおちつけてきいてもらいたい。いまから十時間まえ、わがゴールデン王さまが、とつぜん、どこかへいってしまわれたのじゃ。つまり、家出をなすったのだ」

 


どーも。
子供の頃に読んだ児童向けファンタジー小説
大人になったいま野暮な感想を述べていくブログです。

※以下は4年前に書いた文章です。


【概要】
1964年 第5回講談社児童文学新人賞を受賞
1980年 青い鳥文庫に収録
1986年 児童文学創作シリーズとしてハードカバー版
2006年 講談社文庫版、装画は杉田豊氏。
    (文庫版まえがきによれば1964年の単行本(著者は昭和四〇年としている)の装画も杉田氏だそうだが、こちらは確認できていない。)
2011年 椎名優のイラストによる新装版。
2013年 kindle


クレヨン王国」シリーズの記念すべき第一作
シリーズ中最も有名なのがこの『十二か月』だと思う。
何度も、幾つもの版で発行されてきているし、アニメ『夢のクレヨン王国』の主人公シルバー王女も本作のシルバー王妃から生まれています。

とりあえず当ブログ「週刊クレヨン王国」としては、
青い鳥文庫の整理番号順に扱うので今回は80年版を取り上げる。
ちなみに、わたしが持っているのは95年3月の第45刷。

 

【もくじ】

①ふしぎなおおみそか
②雪だるまきょうそう
③月りょこう
④ホントザクラ
⑤青井青太のこと
⑥にげたこいのぼり
⑦人形の町
⑧森のまつり
⑨空と海の旅
⑩けちんぼ所長
⑪だるまおやじ
⑫まよい道
⑬がいこつ島
⑭お正月

 

【おはなし】

『十二か月』のストーリーをざっくりまとめると、

「小学二年生の女の子ユカが、シルバー王妃とともに、家出したゴールデン王を探して、クレヨン王国を旅する」となる。

「お遣い系」「宝探し」「往きて還る」「バディもの」で、
その旅の途中でクレヨン王国の12の町を12か月かけて巡ります。

 

王さまの家出の理由はシルバー王妃の12の欠点にあり、
・ちらかしぐせ
・おねぼう
・うそつき
・じまんや
・ほしがりぐせ
・へんしょく(偏食)
・いじっぱり
・げらげらわらいのすぐおこり(怒り)
・けちんぼ
・人のせいにする
・うたがいぐせ
・おけしょう三時間
これらが直らない限り王さまは帰ってこないと言っています。
ユカはその話を聞きながら自分にもそういうところがあるなぁと思ってしまいます。

 

そんな夫婦喧嘩、ほとぼりがさめるのを待てばいいのでは、という気もします。
ていうかユカちゃん関係なくない?


クレヨン王国のカメレオン総理大臣は言います。

「王さまがいなくなれば、わがクレヨン王国がどんなふうになるかは、みなもよく、しょうちのはずじゃ。王さまは、太陽じゃ。光じゃ。王さまをうしなえば、われわれはだんだん色をうしなって、つまり、世界は白黒の写真のように、かたちとかげだけになってしまう。赤いリンゴも、みどりの葉も、青い空も、もう二どと見ることができないんじゃ。そうなれば、もう、あくまの国じゃ。人間もほろびてしまう。地球も死んでしまう。」

はい。というわけで、一年以内に王さまを連れ戻さないと世界が滅びます。

 

………まってまって。

妻に愛想をつかした夫を連れ戻さないと世界が滅ぶ?
そんな世界の柱みたいな王様が、妻に愛想をつかしたくらいで逃げた?
どうなってるんだ、クレヨン王国………。
しかしなおのこと、ユカちゃんには背負える問題ではないのでは………


カメレオン総理は、王妃その人にゴールデン王の捜索と連れ戻すことをお願いする。
失踪した王さまの行方を、王妃に、探させる………? クレヨン王国………

 

さすがに一人で放り出すわけにはいかず、王妃の旅のお供をさがすことになります。
しかしみんな王妃の欠点をよく知ってるから。それぞれに悪口をいいながら嫌がる。

 

男が、女のあらさがしをするのは、どうやら人間もクレヨンも、ちっともかわらないようです。ユカは、つい、くすくすと、しのびわらいをもらしました。

 

この辺り(開始9頁)で、早くもコレほんとに子供向けなのか?と怪しくなってきますが、さておき。

そんなこんなで、ユカはシルバー王妃に旅のお供として選ばれました。
どういう理由だったのかはよくわからないし、シルバー王妃がどうやってユカを見つけ出したのかもよくわかりません。とにかく選ばれました。
王妃は正体がバレたらまずいので自分のことは「マリ姉さん」と呼ばせます。


12の町にはそれぞれ、1月の町は白、2月の町は黄色と決まった色があり、
その色の服に着替えないと入れてもらえない決まりになっています。
旅行かばんに色とりどりの服や靴を12ヶ月分詰め込み(ファンタジーなので余裕です)、
こうしてユカとシルバー王妃のゴールデン王さまを探す一年の旅がはじまります――。

 

というわけで。

長くなりましたが、ここまでが導入。
12の町を12ヶ月かけて巡るうちに、12の欠点によって引き起こされる事件や騒動を解決しながら、反省してそれぞれの欠点を直していくのです。

クレヨン王国の住人は、クレヨン以外にも動物や植物、食べ物、折り鶴、雷などいろいろ。とてもファンシーで、いかにもファンタジーという感じがして楽しいですね。
それがまったくの別世界ではなく、わたしたちの世界とつながっているというので
不思議さのなかにも親近感がわいてくる。

 

ただその騒動というのが、ちょっとじゃないレベルで物騒なのがクレヨン王国

  • おなかを壊した蟻たちに胃薬を渡したつもりが殺虫剤をわたして大虐殺「銀髪の女をころせ!」とデモされ
  • 遠い異国からやってきた折り鶴たちがユカたちも目の前で力尽きて大量に死に
  • フラミンゴの兵隊が嘘つき鳥に騙されてサメの只中に放り込まれ、翼折れ片足もがれ血を流し295羽が死に
  • 幼女誘拐した鯉のぼりは警察から見つけしだい射殺してよいと言われ
  • 「王妃をころせ!」という映画のポスターを、自分が死ねば王さまが帰ってくると考えたカメレオン総理の策略だと疑い
  • 刑務所にぶちこまれ
  • 火事の濡れ衣を着せられ
  • がいこつに食われそうになったり。

クレヨン王国、殺伐としすぎている。
ていうかシルバー王妃、本当に国民に顔知られていないんですね…。「マリ姉さん」という偽名だけで簡単に騙し通せるほどに。
クレヨン王国には新聞もテレビもあるのに……。

 

いくらドタバタ珍道中といったって、「ドタバタ」の部分が物騒すぎるし「死」にまみれすぎている。
そういうのは作品のなかでは重要なところではないと思うけど、大きくなってから読み返してみるとやっぱり目につく。
もちろん大人向けの文芸作品とちがって、その死が重い意味を持ったりはしないけど、
それだけにホイホイ死んでいくので「ほんとうは怖いクレヨン王国」とでも言いたくなる。


とまぁ、そんなこんなをしながらもいろんな危機を乗り越え、
最後にはゴールデン王を見つけ、ユカとシルバー王妃の旅は終わる。
ユカがシルバー王妃にお別れをいうと、王妃は
「なぜ、さよならなんていうの。あたしたちは、これからも、毎日会えるのに」
と答える。

目を覚ますとユカは元いた布団のなか。
旅の始まりは大晦日の夜だったけど、起きたらお正月、1月1日だった。
一年の旅は、じつはたった一晩の夢だった。

 でも考えてみれば、それも、ふしぎではないかもしれません。だって、ゆうべ、ねたときはきょねんで、おきてみると、もうことしなのです。一年がすぎたのです。
 一年のゆめを一ばんで見たのがふしぎなら、一ばんのうちに、一年すぎてしまったことのほうも、おなじくらい、ふしぎではないでしょうか。

そうしてユカは初日の出を写生にでかけます。そもそも12色のクレヨンはそのために枕元に用意したのでした。
日が昇ってきて、少しずつ空や海や山の色が変わっていくのを見て、ユカはシルバー王妃の言葉の意味をさとります。

 

 色が、おきてくるのです。
 かくれていたところから、でてくるのです。そして、木の芽のように、ぐんぐん、そだつのです。

 

ありとあらゆる色たちが、――おはよう、ユカちゃん――といって、むくむくと、おきてくるのです。

 

なんだか、世界じゅうが、よくしっている友だちのように思えてきました。

 

色とりどりの動物や植物の世界を旅してきたユカには、どの色も、どの動物も植物も風景も、初日の出の光に照らされて色づいていく世界は、すでによく知っている友だちになっているのです。

この終章はとても清々しく、美しく、素晴らしいと思う。
世界の生を肯定する輝きに満ちている。
クレヨン王国シリーズは、福永先生の自然愛好から動植物の世界に寄り添うあまり、
しばしば人間の文明を一方的に批判することもある。
『十二か月』の終章はそこまではいかず、目に映る色づいた世界すべてを受け入れているところで締めている。

 

できるだけ多くの人に読んでもらいたい。

 こちらは新装版。