積読ですよ!真塚さん

なにもわからない。

週刊クレヨン王国その4『クレヨン王国のパトロール隊長』

講談社青い鳥文庫20-4

クレヨン王国のパトロール隊長』(著:福永令三、絵:三木由記子、解説:宮崎芳彦)

 

「まっすぐにすすみなさい。クレヨン王国の英雄。」 

 

 


【概要】

 

1981年 単行本
1984年 青い鳥文庫

青い鳥文庫での通し番号としては20-4となっているけど、実際には本作はクレヨン王国シリーズの第2作にあたる。刊行順と文庫収録順がなぜか前後している。どうしてなのかは知らない

 

【もくじ】

-星座かんさつ
-フクロウの家
-母をもとめて
-花野平
-雪山をこえて
-とんぼ大池へ
-木おどり山
-きりの中の決戦
-病気あつめの神
-ネダマンネンの館
-王宮の会議
-病院のベッドで
-ヒノス十二湯

 

どーも。

前回からだいぶかかりましたが、クレヨン王国第4巻(本当は第2作)です。

本作はクレヨン王国シリーズ中でも名作の誉れ高く、さてどうやって紹介したものか………と悩んでいたらこんなに遅くなりました。はてダ時代に詰まって投げ出したのもまさにこの理由です。

『パトロール隊長』は名作。いい話。暗い設定が多いので、児童向けファンタジーとなめてるとめっちゃ重い話が襲ってきて鬱、というスタンスの週刊クレヨン王国的にも美味しい。

が、美味しすぎてどう書けばいいのかわからない。あれもこれも全部書きたい。

ていうかもう全部転載するからとにかく読んでくれ!という気持ち。

感想をだらだらするブログとはいうものの、初めはあまりにだらだらになってしまって消し、ポイント絞って書こうと思った次の原稿は、だけどぼくが書きたいのはこういうことじゃないんだよなーと消し。

結局、初めの全部だらだらする形式に落ち着きました。

思えば週刊クレヨン王国は、自分用の備忘録でもあるんだから、それで良かったのです。

誰が困るわけでもないし。

 

というわけで以下、だらだら感想文でもよければお付き合いください。

 


【あらすじ】

きわめて荒っぽくまとめるとこうです。

クレヨン王国に迷い込んだノブオは、クレヨン王国のパトロール隊長に任命される

水の女神フローラーの娘、水の精スージーと出会う。水の精と火の精は戦争をしており、ノブオは戦争を止めに入るが、スージーが深傷を負ってしまう。

③彼女の傷を癒やすため、病気の神ネダマンネンに会いに行く。スージーの傷は治るが、水の精・火の精両軍の決戦が目前に迫る。

④ノブオは戦争を止めるため、使ったら死んでしまうと言われた宝玉の力を使う。ネダマンネンの協力もあり生き残ったノブオは、スージーに招かれて湯治におもむき、そこでスージーと火の精のひとりむすこヒュードンが結婚することを知る。

⑤ノブオは元の世界に帰る。

おおむね、メインのストーリーラインはこんなところです。

また戦争してるんだな、クレヨン王国クレヨン王国がというより、国内で火の精と水の精が争っているわけだから内戦ですが。まったく物騒なおとぎの国です。

水の精と火の精の戦争は本作でもっとも紙幅が費やされる話であり、重要なことは間違いありません。けれど、飛ばすことのできないエピソードが幾つもあります。

①ノブオの家庭環境

②ワレモコウの話

③ネダマンネンの病気の館

シジュウカラのおばさんの話

特にノブオの家庭環境は、この物語の根幹となる部分です。

 

【ノブオの家庭環境】
 家族構成ノブオの家は父、母、ノブオと妹の四人家族。今の母親は後妻で、妹は連れ子。ノブオの生母は他界しています。ノブオの父はタクシー運転手、実母は専業主婦でした。義母は電話局に勤めていましたが、いまは辞めています。

 妹妹のきよ子は義母の連れ子です。ノブオは義母ともきよ子とも仲は悪くない。義母の言うこともよく聞くし、妹とはむしろとても仲が良い。きよ子は失明しています。それが実はノブオのせいなのです。帽子を投げて遊んでいたとき、道路に落ちた帽子を拾いに妹が飛び出し、そこにトラックが突っ込んできました。寸前でトラックがハンドルを切ったためきよ子の命に別状はありませんでしたが、失明し、トラック運転手は死んでしまいました。運転手の遺族は妹が生きているのがせめてもの救いと、ノブオを責めません。同じく運転を生業にしている父はノブオを殴りますが、母は何も言いませんでした。妹も、ノブオを責めず、むしろ今まで以上に慕ってくれています。

 義母父は毎日真っ白な手袋をつけて仕事に出ることを誇りにしており、実母母は毎日手袋を綺麗に洗濯して用意していました。しかし母は死んでしまい、父は別の女性と再婚します。

義母は電話局に勤めていました。前妻のように毎日手袋を洗濯するというわけにはいきませんでした。継母は、この白い手袋が夫と前妻の絆のようで嫌でした。しかし前妻がしていたことができないでは負けたような気がするので、新しい手袋を買い足していくことで対応しました。ところがそれも追いつかず、ある日、父は汚れが残ったままの手袋をつけていくことになります。父は怒ったりはしませんでしたが、がっかりしたような態度なのはわかりました。(ここで、はー?おめーが自分で洗えよ!と思っても話が進まないのでとりあえず飲み込んでください)

事故で失明した妹の世話のため、義母は電話局を辞めました。父とは喧嘩することが多くなりました。そして家相とか、姓名判断とか、死んだ人の霊の話に凝りはじめた。ノブオも本当は「信雄」と書くが、カタカナのほうが運勢が良いから、と母はいいます。父は改名に猛反対しましたが、ノブオは自分の小遣いをはたいて「ノブオ」表記の名刺をつくりました……。

 

やだ、もう重い。

ファンシーさとか、やさしいファンタジーとか、一気にかき消えていく……。

さらに、ノブオには天敵ともいうべき存在が学校にいます。それが右田先生です。

 

右田先生はノブオのクラスの担任教師で、人格者として人気があります。右田先生が受け持ちときくと「当たり」だという保護者もいるほどです。けれどノブオとの相性は最悪。右田先生はノブオにだけはいじわるで、とげとげしい。何かというと生意気だと邪険にされる。

ノブオも右田先生を前にすると、気持ちがささくれだってくる。理由はわかりません。右田先生がノブオを嫌う理由も、ノブオが右田先生をにくむ理由もわからない。とにかく相性が悪いとしかいえない。本作冒頭でノブオが森の奥に駆け込んでいくのも、ノブオとクラスメイトの喧嘩を、一方的にノブオが悪いせいにされたことが原因でした。

 

……え、は?

よく生きていけるねノブオ。

児童文学はべつに甘くて優しい世界ってわけじゃない、って知っててもキツい。

例えばハリー・ポッターも、両親を喪って意地悪な親戚のもとで育てられるという、つらい幼少期を送っているわけですが、彼の場合は貴種流離という側面と、楽しい魔法学校の前置きという面があります。

2018年9月末、同じく青い鳥文庫の人気作『若おかみは小学生!』のアニメ映画が公開されました。冒頭で交通事故シーンを描く、事故相手と宿泊客として出会ってしまうなど、原作よりもシリアステイストに描かれたことで大人の鑑賞者の心と涙腺をバキバキに折りまくったことで話題になったのは記憶に新しいところです。でもあれだって、ターゲット層であるリアルタイム原作ファンが20歳前後になっていることを考慮してのこと。

ノブオ少年の心をザクザク刻んでいるこの環境は、クレヨン王国でも幾度となくノブオの心に浮かんできます。異世界で辛い家庭環境と向き合わされる話、ちょっと『ブレイブ・ストーリー』のことを思い出しました。

 


さて、いいかげんストーリーに入りましょう。

以下、一章ずつ内容を追っていきます。

 

第1章「星座かんさつ」

ノブオ少年は春休みにひらかれた星座観察会に参加します。

自由参加だし、正直なところ休みの間に右田先生に会うなんて御免だったけど「わざわざ春休みに開くってことは、もしかしたら来年度は受け持ちが変わるのでお別れ会の意味があるのかも」と思い、だとしたらその吉報を一刻も早く聞きたいと、参加を決めたのです。

あまりに可愛くなさすぎる理由!でもノブオにとっては切実です。

その星座観察会で、しかし右田先生は来年度も持ち上がりだとわかります。残念。しかもクラスメイトが、野山に慣れていて詳しいノブオの観察方法を真似てさも自分が思いついたように吹聴し、さらに先生までみんなあいつを見習えと言っていて、とても嫌な感じです。
そのクラスメイトは、夜闇のなかだったとはいえ、ノブオが大切な妹から借りてきたクレヨンを蹴り飛ばしてしまいます。拾えよ!と飛びかかると、右田先生がしゃしゃり出てきて、なんだクレヨンぐらいのことで、謝ってるんだから許してやれ、とミラクルアシスト。

ノブオの怒りは頂点に達します。

 いいかけて、先生は、あっ、と左のほおをおさえました。ノブオがペッとつばを飛ばしたのです。

「ごめんなさい、先生。――ぼく、あやまったよ。」

 ノブオは、にくしみのあまり、声をがたがたさせて、こういいました

「あやまったから、いいでしょう。」

 そして、やにわに、暗やみにむかって、かけだしました。

こうしてノブオはこの世界の境を越え、クレヨン王国に迷いこんでいきます。

 

第2章「フクロウの家」

夜の森をさまよううち、灯りを見つけます。

「フクロウのおうち」という看板のかかるその家をたずねたところで、ノブオは力尽き倒れてしまいます。
フクロウの家では、クレヨンの大臣たちと、カメレオン総理と、ゴールデン王さまが、予算会議をしているところでした。

なんでこんなところで予算会議なんか……

倒れたノブオはベッドに運ばれます。ゴールデン王さまは身を案じて、ノブオの心の歌をきいたり(なに?)、アトラス光線(なんて?)で透視をしたりして、ノブオの心の容態を確かめます。当然ボロボロ。ちょっとでも触れると壊れてしまいそうなところで踏ん張っている状態です。

 

ゴールデン王さまはカメレオン総理にノブオのことを一任します。

で、カメレオン総理はフクロウに丸投げします。

 

目を覚ましたノブオに、フクロウは着替えるよう言います。

「ここは、どこですか?」

「ここは、クレヨン王国です。」

「ぼくは、どうなるのですか。これから。」

「そんなことは、だれもわからない。」

 フクロウは、やさしげに、さとすように、いいました。

「あなたは、知らない国へ来たんだから、まず、その国のことを知ろうとすべきですよ。それから、勇気ある男の子だったら、じぶんがこれからどうなるかなんて、他人にたずねないほうがいいですよ。」

 

たずねるよ!!

フクロウは「どうなろうとあなたしだい」と言い、ノブオは「なにをっ」と反骨心かなにかをドライブさせて復活します。

色とりどりのタンスに色とりどりの服が入っていましたが、ノブオは黒い服を選びます。詰め襟のような服でした。それが、パトロール隊長の服でした。こうしてノブオは、777代目のクレヨン王国トロール隊長となったのです。

 

……ん? いや、べつにおかしなところはないです。776代目隊長のフクロウが「きみが新しい隊長だ」と言ったのでノブオは隊長です。

 

フクロウはノブオに三つの玉を差し出します。虹色に光る〈心の玉〉は、握らせるとその人の心の中がみんなわかってしまうというチートアイテムです。赤い玉と青い玉は、火の精カヤーナと水の精フローラーを呼び出すためのものですが、けっして使ってはならないと言われます。使うと命を落とすからです。んな危ないもん渡すな。玉手箱か。

 

第3章「母をもとめて」

トロール隊長になったのはいいのですが、特に仕事がありません。いまのところ平和そのものです。

緊張がゆるんだノブオは、なんとなくこの世界で死んだお母さんに会えるような気がしてきました。遠くに女の人の姿が見えると、みんなお母さんのように思われはじめます。夢中で追いかけるけど、人違い。

そんなことばかりが続き、隊員たちからも「うちの新しい隊長はまるで赤ちゃん」と言われてしまう始末。

フクロウは忠告しますが、ノブオは「ぼくはお母さんを感じる!」「お母さんに会わせてほしい!」の一点張り。仕方なくフクロウは会わせてやると約束して、夜明けの浜辺にノブオを連れて行きます。

わくわくそわそわするノブオに、フクロウは昇りゆく朝日を指して

「あれが、きみのお母さんだよ」

だまされた!と思いますが、何だかんだでノブオは納得し、「もう、だいじょうぶです。ぼく」と笑顔を取り戻すのでした。

 

心が死にかけていたノブオが立ち直るターンですが……

えっ、なにこれ。

ノブオおまえそれでええんか。感動的シーンっぽいけど、完璧に言いくるめられとるぞ。

まあ、ノブオも小学生ですから、お母さんには会いたいですよね、そりゃあ……

 

.第4章「花野平」

ようやくここから、ノブオのパトロール隊長としての活躍が始まります。

この章ではまず小さな揉め事を解決します。

春の草花が咲きみだれる野原のなかに、まちがって秋の草であるワレモコウが咲いてしまい、お互いを知らない彼らのあいだに行き違いが起きる。行き違いはワレモコウを追放しようという署名活動へと発展するが、秋を知るノブオと鳥たちが必死に説明することで、春の草花は自分たちの行きすぎたおこないを反省した。

以上、おおまかなところこんな事件です。

まずその見た目が醜いと話題になりました。さらにワレモコウが周りの草花にクズ、ヌスビトハギ、ヘクソカズラ(すべて秋の草)と呼びかけたりするので、屑だの盗人だの屁糞だのと呼ばれた春の草花はカンカンに怒り、あいつは醜いうえに頭がいかれているとなじります。友達の鳥にたのんでウサギの糞をぬりつけてもらった、とへらへらと話してさえいます。

「みにくいのは、生まれつきだから、しかたがない。むしろ、同情すべきだ。」

「おれたちの名を知らないのは、もともとばかなんだからしかたがない。だが、ゆるせないのは、あいつが、ひどいうそつきだということなんだ。」

と言うものもいます。嘘とは「虫が鳴く」という話。秋の草であるワレモコウには当たり前の話ですが、春の草花たちは信じません。

で、追放の署名運動です。

異物の排除という、キャラクターが草花や鳥であっても、めちゃくちゃ生臭い話。ていうか方法が。

あれ、全然「小さな揉め事」で済まないぞ……

ノブオはワレモコウと話をします。自分は右田先生が憎いという、誰にもしたことのない話を。ワレモコウは、このまま春の草花を恨んで死にたくはない。しかし彼らも自分が現れるまではこんなに怒りや憎しみを抱えてはいなかったろう、君と右田先生も同じなのでは、とノブオに語りかけます。先生のことばかりを悪く考えていたノブオは、その言葉にショックを受けます。

結局ノブオと鳥たちの支援により、ワレモコウの誤解はとけ、野原の音楽会に参加することが―――そこへ。ワレモコウを摘み取ってしまう女性、スージーが現れます。スージーは美しく赤く輝くワレモコウを自分のブローチにしてしまいます。この出会いが、ノブオを水の精と火の精の戦争へと巻き込んでいくのです。

 

第5章「雪山をこえて」

さて時は飛んで、パトロール隊で雪山越えをする場面です。

山小屋で夜を過ごしていると、スージーが姿を現します。

「わたしがきたくてきたのじゃないわ。」 

それが、かの女の最初にいったことばでした。

「わたしのボタンが、どうしてもあなたにあいたがるものだから。」

スージーのボタンとは、彼女が摘み取ったワレモコウです。

「あのとき、あたしのしたことは、これで、ゆるしてもらえるわね。この花たちは、まだまだ生きるわ。あたしが、生きているかぎりは。」

「それは、永久に、っていうこと?」

「まさか。」

 スージーは、白い歯を見せて、 ほほえみました。

「あたしだって、生きられるあいだしか、生きられないのよ。」


なんで急にこんなカッコいい会話してるんでしょうか。

隊員たちが会話を聞いているのを感じて、ふたりは外へ出ます。外に出ても特に話すこともなく、スージーが別れを告げた時、ワレモコウが叫びます。

「隊長! この人をとめてください。」

 スージーのむなもとから、ワレモコウのボタンが、さけび声をあげました。

「この人は、戦争にいこうとしている!」

「戦争 だって!」

 ノブオがおどろいてさけぶと、スージーは小さい子をあやすように、ほほえんで、

「そうよ、おとぎばなしのおひめさまの戦争だわ。ほら、あれをごらんなさい。」

スージー、セリフがいちいちカッコいいんだよな。彼女は部下の水の精たちとともに去っていきました。

ノブオはパトロール隊員とともに、自分たちの目的地をめざします。

 

第6章「とんぼ大池へ」

ノブオたちは、パトロール隊の支部のあるサウスベルの町に到着します。(地名は重要じゃないので覚えなくても大丈夫です)

サウスベルはカヤーナ火山の麓にありますが、ここ最近日照り続きで困っていました。かと思うと100キロ離れた、川より上にあるニューボトルの町が大洪水で全滅したといいます。何か関係があるのではと、ノブオは高原地帯にある、とんぼ大池を調べに行くことにします。

とんぼ大池からは、たくさんの動物たちが逃げ出していました。池の女神が池から出ていけと言ったというのです。ノブオはボートに乗り、池の上で女神が現れるのを待ちます。夜中、池の女神が姿をみせました。

女神は池に住む魚たちに別れを告げ、「剣をとって敵とたたかうように、わたしにもおめしがきました。」と皆に令状を掲げてみせ、読み上げます。

「この令状を手にしたものは、一日のゆうよもなく、武器をととのえて、木おどり山に集結せよ。火の精のこれ以上の暴虐をゆるすことは断じてできない。いまこそ身命をなげうって祖国をまもるときだ。勝利は、わが軍の頭上にかがやいている。なぜなら、 正義という力づよい味方がわが軍にくわわっているからだ。なんじの命を、つるぎのまっ先につけてとつげきせよ。われは、つねになんじのまえをすすむことをちかう。第一軍総司令官スージー=フローラー。」

またかお前かスージー、hカッコ良すぎなんじゃ。

池の女神は、まだ年若い水の精と、目鼻のない二人の退役した水の精に池をまかせて去っていきました。ノブオはあとに残された三人の水の精から、多くの話を聞きます。

 

第7章「木おどり山」

この章では火の精と水の精の戦争の経緯が語られます。

そもそもの発端は、ノブオたちがやってきたこの山、火の精カヤーナの住居であるカヤーナ山です。

カヤーナは活発な火山で緑はまったく育たず、一番近くの森に茂る木々も焼かれたり、吹き飛ばされたりと、たびたび噴火の被害にあっていて、いつ死ぬかと怯えていました。(もうつらい)

せめて何か楽しみはないものか、と満月に聞いてみると、「踊るほど楽しいことはない」といいます。木は動けないから踊れないというと、根を張ってるからいけない、根の先を切ってみれば動けるだろうとお月さまは言います。

言うとおりにしてみると、本当に動けました。初めは向きを変えるだけでしたが、次第に動き回れるようになり、踊れるようになりました。それからこの山は「木おどり山」と呼ばれるようになります。

とうとう、木々たちはハイキングに行くことにしました。水筒を持ち、リュックサックをしょい、お弁当を持って、ワイワイさわぎながら出かけました。 しかし、峠についたとき、カヤーナ山が小さな爆発を起こし、木々は倒れてしまいます。そしてもう二度と立ち上がることはできなくなりました。(つらすぎる)

 

はっきりとは書かれてませんが、死ですよね。

根を切ってるし、元の場所に戻れずに倒れてるし。

爆発に煽られて倒れて置き上がれなくなっちゃった、みたいに書いてますけど、空襲でしょこんなの。

でもこの木々たちのおはなしは、実はどうでもいいことなのです。(さらにつらい)

重要なのは彼らの住んでいた、木おどり山という場所です。


さて、木々のいなくなった木おどり山には、もともと木の生えていたところに大小いくつもの穴が残されています。これを見て、カヤーナは「かわいい火口のようだ。あのなかに火の精を埋めればいいんだから」と、火の精を送り込みました。

ところが折悪しく、水の精フローラーも、あの窪みは池にするのにぴったりだと思い雨を降らせてしまったのです。雨に打たれた火の精たちは重傷を負ってしまいました。すぐさまカヤーナは報復の大軍を差し向けます。

こういうわけで、火の精と水の精の戦争が始まりました。火の精にやられた水の精は、目も鼻も溶けてしまいました。目の見えない水の精は水量などをコントロールすることができず、洪水や鉄砲水を起こしてしまうのでした。先日のニューボトルの町の洪水もこうしておこったのでした。

 

ちなみに事の発端となったお月様ですが、木おどり山の木々をけしかけるだけけしかけといて、このあと一切でてきません。『いちご村』の「ラッパふきのエンゼル」に出てきたお月様もそうでしたが、なぜかクレヨン王国にでてくるお月様は厄介な方が多いです。『森の小川』なんてお月様の厄介無双ですし、その最たるものはクレヨン王国シリーズ中でも最長の物語『月のたまご』です。月のたまごの場合はキャラクターとしてのお月様ではありませんが。


閑話休題
ノブオはさらに核心に近づこうと、国によって禁じられた入山を禁じられた木おどり山に向かいます。パトロール隊員たちは国禁を破ることはできないというので、ノブオ独りで。
途中、干上がりかけている池から大量のフナが地上に出ていました。池に戻してやろうとすると、フナたちは怒り出します。自分たちは子供たちを生かすため、酸素を多く消費しないように、自分から池を出たのだと。それを聞いたノブオは自分の父のことを思い出します。
この章は木おどり山の木々のエピソードといい、池に住む生き物が苦しむ描写といい、暗い話がつづくのでけっこうキツいです。
開戦は明日。ノブオに何ができるでしょうか。

 

第8章「きりの中の決戦」

ノブオは火の精の陣営にもぐり込みます。

軍服をちょろまかして着たり、ちょっとスパイアクションみたいなところもあります。

火の精の一人息子ヒュードンのところまでたどり着きますが、折悪しくそこで開戦となりました。攻めくる水の精の軍隊。その中には、あのスージーの姿もありました。

スージーはヒュードンに斬りかかります。「いけない!」とノブオは身を躍らせました。スージーは驚きますが、振り下ろした剣は止められず、ノブオの肩先を切りました。

なぜ止めたのかとなじるスージーに、きみを人殺しにしたくなかったのだとノブオは答えます。よけいなこと、とスージーは云いますが、もう戦う気は失せていました。ノブオに応急手当をして退却の命令を出します。スージーはノブオを自分のウマに乗せて戦場を去ろうとしました。

そのときです。ふたりが、ウマごと落とし穴に転げ落ちたのは……。

目が覚めたとき、ふたりは火の精に捕らわれていました。そばには、すまなそうな顔のヒュードンがいます。ノブオはスージーの身を案じますが、スージーを捕らえようとした火の精が彼女の顔を槍で突き、彼女は目も鼻もない顔になってしまっていました。

火の精の軍隊は勝った勝ったと大喜びですが、もともと戦争をのぞんでいなかったヒュードンにはもちろん、火の精全体にとってもこれは良くないことでした。

スージーが帰らないとなれば、水の精は彼女が死んだと考えます。そうなれば永久に仲直りは不可能となり、全面戦争は避けられません。生きているにせよ、顔を潰されるという辱めを受けていれば同じこと。

火の精カヤーナは「彼女をネダマンネンのところへ連れていってほしい」とノブオに懇願します。

ネダマンネンは神様で、あらゆる病をつけたり外したり自由自在です。ネダマンネンにスージーの顔の怪我を取ってもらえれば、フローラーとの関係も修復できるだろうというのです。水の精フローラーは百日の喪に服したのち、総攻撃を開始するでしょう。なんとしてもその前に成し遂げなければならない。

 

こうして、ストーリーはタイムリミット付きのミッションインポッシブルへと転がっていきます。

 

第9章「病気あつめの神」

と、盛り上がったところで、また話はいったん本筋から離れます。

大男の神、ネダマンネンの話です。新キャラが出てくるたびにバックボーン紹介やるの? 

ネダマンネンは怠け者の神様で、1万年寝ては100年起きて、を繰り返していたので人々はネダマンネンと呼ぶようになりました。尋常でない収集癖で、あるとき世界中の病気を集めて自分の身に住まわせます。神様だから死なないものの、病気だらけでうんざりしてしまいました。

病気たちを追い出そうとしましたが、彼らは出ていく先を世話してほしいと怒ります。そこでネダマンネンは「病気一つにつき100万円」という張り紙を出し、人間たちに病気を配りました。軽いものはどんどん貰い手が現われますが、重病は残ったままです。値段を10倍、100倍に釣り上げると、それもきれいさっぱり片付きました。けれどしばらくすると、ひとつまたひとつと病気が戻ってきます。宿主が死んでしまったというのです。ネダマンネンは知恵を絞ります。

  まえに当方で売った病気を返品したい人は、だれにも見つからぬように、こっそりと陳列室にかえしておけばよい。ただし、もし見つかった場合には、べつに、新しい病気一品をひきうけねばならないのです。


 このはり紙は、すごい効果をはっきしました。人々は、みんなお金は断然もらうが、病気だけはかえしたいとねがっていたからです。

さらにネダマンネンは、病気を返しに来る人に気づいていても、何人かに一人は見逃すことで、絶対に不可能ではない、運が良ければ成功する、と思わせることに成功します。

本文ではこのことを「ネダマンネンは、いわば病気のスムーズなじゅんかん運動、流通機関を完成させた」と表現していますが、なんていうか、邪悪すぎやしませんか。

 

で。

長くなりましたが、ここにスージーを連れて行って、うまいこと顔の怪我を置いてこられれば、フローラーに無事なスージーを返せるし、すべて丸く収まるはず、とカヤーナは考えてノブオたちをここへ向かわせたわけです。ミッション・インポッシブルなのです。火の精の総大将のくせに考えることがセコい。

目鼻を失ったスージーは水の精の力もなくしてしまったので、ノブオは歩いて彼女を連れていきます。何の力もない盲目の少女に、妹のきよ子を思い出さずにはいられません。

スージーは「自分のために多くの水の精たちが辛い思いをしたのだから、自分がこのような目にあるのも当然。むしろ心が安らかになった」と言い出しますが、そんなことを言われても、大戦争を避けるためにもネダマンネンの館行きを止めるわけにはいきません。

ネダマンネンの館のまわりには、病気を置いてきたい人々によって町ができていました。ちなみにネダマンネンの館があるのは「秒木県毛賀郡意多味村大字記徳四二」です。これでもクレヨン王国の地名です。

町にはやたらと有料図書館があり、そこにはネダマンネン攻略の参考書や体験記が並んでいるのでした。挑戦して失敗した人たちが、体験記を書いて図書館の看板を掲げるのです。そして人々は並んででも最新の情報を求めます。中には挑戦しもしないで空想をでっち上げる人もいましたが、実際に挑戦して失敗した人なら重い病気をもらってきているはずなので、しばらくして死なないようなら、それは嘘だったとすぐにわかるのでした。

 

いやだからそういう邪悪な話やめよーよ。ひとの私利私欲の醜さを描くのを忘れない福永先生ですが、「病気の流通機関」といい、この町の経済といい、ブラックユーモアが過ぎませんか。やけに凝ってて怖いです。
ノブオも図書館のひとつに入って本を読んでみますが、そこにネダマンネンの顔写真が載っていました。どう見ても、右田先生なのでした。ノブオの心に憎しみが湧いてきます。こいつに勝つことが自分のすべてだ、と思うほどに。

 

.第10章「ネダマンネンの館」

もちろんそう簡単に勝てるとは思っていません。

まずはスージーは置いて、ノブオひとりでネダマンネンの館に忍びこんでみました。

で、あっさり見つかります。その上、病気を一つも持っていないのに忍び込んだのを怪しまれ、泥棒と疑われます。

カッとなって(なにしろ右田先生にしか見えないので)事情を説明すると、「なぜそんな大事件なのに、事情を説明して会いに来なかったのか」とネダマンネンは問いました。ザ・正論。

「おまえは、おれがたのみをきくはずがないと思っていたんだな。それは、おれをわる者にしたてることなんだぞ。だから、おれのほうも、いまおまえを、どろぼうとしてあつかう。これで、あいこではないかね、え?」

まったく言い返せません。ノブオは百日ぜきをもらって追い出されます。

けれど病気になったからといって休んではいられません。館であったことをスージーに話すと、彼女の服のボタンになっていたワレモコウが館攻略のヒントを見つけてくれました。翌晩、ノブオとスージーはふたたび館に忍び込みます。

いや……いや、事情を話して正々堂々と面会しにいけよ……!

ワレモコウの見つけてくれたヒントのおかげで無事陳列室にたどり着きました。スージーは美貌を取り戻し、ノブオも百日ぜきを落とします。

が、またしても姿をあらわすネダマンネン!万事休す!ノブオは病気をもらうだけなら自分だけにしてくれ、と懇願します。スージーの分までふたつもらうから!と。

しかしネダマンネンは今度は怒っている様子はなく、ノブオのことを許しているようでした。

なごやかに話すうち、ノブオたちとネダマンネンはハイキングに行くことになります。

翌日、紅葉の綺麗な山に登って、ノブオは世界一美味しいと自信のある、母直伝のおにぎりを振る舞います。そこへ雪がちらつき、ネダマンネンは紅葉と雪をいっぺんに見ながら美味しいものが食べられるなんて素晴らしいと喜びます。

しかし、スージーだけが青い顔をしていました。雪たちが、水の精の軍は総攻撃をかける準備をすでにととのえていると話しているのを聞いたのです。スージーたちのいるところから軍がところまでは三日かかるが、スージーの百日の喪が明けるのは、つまり総攻撃の開始は、明日に迫っています。

これまでの苦労がすべて無駄になってしまうのか、とノブオはショックを受けます。どう考えても悠長にハイキングなどしているからなのですが、ともかくどうにかしなければなりません。

思いついたのは最後の手段。フローラーを呼び出す青い玉です。

誰にも姿を見られてはならない彼女を呼び出すということは、ノブオの死を意味します。しかしそんなことで悩んでいる暇はありませんでした。スージーは止めようとしますが、ノブオはフローラーの名を叫びます。スージーの悲鳴と、ネダマンネンがノブオを一口に飲み込むのは同時でした。

 

第11章「王宮の会議」

クレヨン王国首脳部は連日大わらわでした。

度重なる自然災害に、気象台の予測はあてになりません。

噴火と大雨の危険があると非常事態宣言と避難命令を出したのに、次の日にはもう噴火の危険はなくなり、快晴で雨も降らないと言い出す始末です。

気象台長も混乱して困っていましたが、カメレオン総理は「よろこばしいことじゃないか!」と彼をクビにします。

とにかく今後の方針を検討しなければ、と閣議を開こうとしたとき、王宮に、木おどり山に入って死んだと思われていたノブオが姿を見せたのです。

 

第12章「病院のベッドで」

あのとき、ノブオがフローラーを呼んだ直後、ネダマンネンはノブオを飲み込みました。

フローラーはスージーを連れ帰り、彼女がいなくなったのち、ネダマンネンはノブオを吐き出しました。フローラーの顔をみていないため、ノブオは死なずに済んだのでした。万事うまくいったのです。

ふらふらになりながらもノブオは王宮に向かい、すべてを話しました。もう何のちからも意思も湧いてきませんでした。そのまま倒れて入院生活です。偉い人たちがたくさん来ましたが、ノブオは心ここにあらずの状態です。

あるとき、部屋の外から話し声が聞こえました。看護婦さんに聞くと、掃除のおばさんのシジュウカラが、娘に電話としているのだといいます。仕事仕事でいっしょにいてやれず、娘はいつも母を困らせるようなことばかり言っているのだそうです。

さらに話を聞くと、なんとその娘とはヘビなのです。昔、雛たちを狙いにきたヘビが、けれどシジュウカラにたどり着く前にトビに殺されてしまいます。翌日シジュウカラがヘビの死体を見に行ってみると、そばに小さなヘビがいるのを見つけました。彼女はそれを引き取って自分のことして育てる決心をしたのだそうです。

「でも、人にはわからない苦労があるみたい。まま母というものは」という看護婦さんの言葉に、ノブオはドキッとします。

翌日も、シジュウカラが電話をかけている声が聞こえました。ノブオは初めて病室を出て、シジュウカラと話をします。

 

第13章「ヒノス十二湯」

スージーからの招待で、ノブオは温泉にやってきます。さまざまな色の十二の温泉です。ノブオは十二日間かけてすべてのお湯を巡ります。

十一日目の夕方、昨日まではなかった真新しい石碑に気づきます。そこには「ヒノス十二湯由来記」と書かれています。

この温泉は水の精と火の精の和睦の証としてつくられ、さらにスージーとヒュードンは結婚するのだと。「ヒノス」とはヒュードンとスージー、さらに二人を結びつけたノブオの頭文字をとって名付けられたのだと

結局ノブオはクレヨン王国には留まらず元の世界に帰るさだめとはいえ、この結末はスージーに心寄せていたノブオの心にズシンと響きます。スージーに一目会いたいと思いますが、それは未練だと、温泉をあとにし、自分を待つ使者のもとへ行きました。

ノブオは国禁を犯した罰として、国外追放の身となります。すでにパトロール隊長は解任された身。後任にはフクロウがふたたびおさまっています。ノブオはフクロウにもとの世界に帰るための道に案内されます。

「あなたは、この道をおりていくので。そうして、わたしたちは、いま、おわかれです。」

 さっとフクロウは、片方の羽をさしのべました。ノブオは、むねがいっぱいになり、どうしたらいいのかわからなくなりました。

「まっすぐにすすみなさい。クレヨン王国の英雄。」 

道の先に待っている人の姿があります。一目会いたいと願っていたスージーでした。ノブオはスージーに、自分がもらった功一級の桜花大勲章をわたします。

すると、自分をさがす声が聞こえてきました。

クレヨン王国に来てから過ごした時間は一年間なのに、今はまだ星座観察会から数時間しか経っていないということもわかりました。

クラスメイトや、きよ子がノブオを呼んで探しています。その中には右田先生の声もありましたがノブオは自分を呼ぶ方へと走っていくのでした。

 

おしまい。

 

……いやー………これは、ちょっと酷な話だと思いますねー。

『パトロール隊長』は名作ですけど、それにしてもノブオに対して容赦がなさすぎる。

クレヨン王国で出会うものに、父や、義母や、きよ子のことを思い出し、反省していくというのは、ファンタジーの王道っちゃあ王道展開ですが、それノブオくんが反省しなきゃいけないことか?

小学生の男の子が、シルバー王妃のように我が身の悪癖を省みるならともかく、こんだけ重苦しい家庭環境で自分にもっとできることがあったはずだ、なんて思い悩むの、おかしくないですか?

右田先生の件も、ノブオと同級生の関係ならともかく、右田先生はノブオより圧倒的に強い存在であり、たとえ右田先生にとってノブオがどうしても反りの合わない存在だとしても、右田先生が憎しみでもって接するのは大人として、教師としてどうなんだ、とは思います。

ノブオにその納得を求めるのも、すでに相当物分かりのよい子供を演じている彼にはさらなる重圧なのでは……

ノブオ可哀想……ほんとうに可哀想としかいえない………。

 

さらにワレモコウ追放署名運動、戦争で傷を負った水の精、木おどり山の木々、とんぼ大池の親フナたち、ネダマンネンの館の周りの町……

『12か月』や『花うさぎ』なんかは、可愛いナリしてるけど実はつらいエピソードや描写もあるぞ!と言えるのですが、

『パトロール隊長』は全編通してつらいエピソードと描写しかない!

でも不思議と読後感は悪くない。それもまたクレヨン王国の魅力なのかもしれません………

 

ところで残念ながら『パトロール隊長』には新装版がありません。

できればこれも、というかもう全部そのままベストコレクションに入れてほしいものです。

しかし椎名優先生のかわいい絵柄で、目鼻のない水の精のおそろしいイラストとか、あんまり想像できないかも。

 

 

さて次巻は『クレヨン王国の白いなぎさ』。

これもまた暗めのエピソードで知られた作品です。

できるだけ早く更新できればよいのですが。

 

では。